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大阪高等裁判所 昭和51年(行コ)39号 判決

大阪市阿倍野区阿倍野元町一七番二号

控訴人

興亜コンクリート工業

株式会社

右代表者代表取締役

石井秋平

右訴訟代理人弁護士

藤原光一

池尾隆良

高階貞男

右訴訟復代理人弁護士

西川元庸

大阪市阿倍野区三明町二丁目一〇番地

被控訴人

阿倍野税務署長

丸谷哲郎

右指定代理人

服部勝彦

中野清

西宮啓介

山中忠男

上野旭

右当事者間の法人税課税更正処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、控訴人

1. 原判決を取消す。

2. 被控訴人が昭和四六年一月二一日付で控訴人に対してなした、控訴人の昭和四四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分の法人税につき所得金額を四八、六二一、一九八円、法人税額を一六、四三六、一〇〇円とする旨の更正処分のうち、所得金額二二、〇三五、〇〇〇円、法人税額七、七一二、二〇〇円の部分および過少申告加算税三一二、二〇〇円、重加算税二、三一三、六〇〇円の賦課決定処分を取消す。

3. 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

主文同旨。

第二、当事者双方の主張

次に記載するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決五枚目裏一行目「被告」を「「原告」と改め、八枚目表三行目「二」を「三」と改め、一一枚目表三行目「合件」を「合計」と改める。)。

一、控訴人

1. 法人税法三三条二項は、金銭債権を除くすべての資産について評価損の計上を許容しているものであるから、資産が価額を付して計上されていれば、その勘定科目が建設仮勘定であつても、当該資産の帳簿価額が記載されているものとして、評価損の計上が許されるものと解すべきである。

2. 控訴人は、訴外会社との間で、昭和三九年一〇月二二日訴外会社から本件プラントを七七、〇〇〇、〇〇〇円で買入れる契約を締結したが、昭和四四年九月頃その代金をすでに支払ずみの二三、〇〇〇、〇〇〇円に減額する旨の変更契約を締結したものである。かりに、右変更契約の成立の時期が昭和四五年三月であるとしても、本件においては、建設仮勘定として価額が帳簿に記載されており、かつ、客観的にその工作物の価額が著しく低落し帳簿価額を下廻わることが明らかになつたのであるから、昭和四四年の事業年度に評価損を計上することが許容されなければならない。

二、被控訴人

1. 控訴人の右主張を争う。

2. 建設仮勘定とは、建設に相当の期間を要する有形固定資産につき、自家建設の場合には材料費、労務費、その他の経費等、請負建設の場合には代金の一部前払等建設のための支出を一時記入しておく仮勘定であつて、完成のときに当該完成資産の本勘定に振替えて清算することが予定されているものである。一方、評価額は、自己資産につき計上されているものであるから、自己の資産としていまだ取得されていない資産については、発生する余地のないものである。したがつて、本件プラントの代金の一部前払金が建設仮勘定で経理されているからといつて、ただちに評価損の発生が可能であるとはいえないのであつて、建設仮勘定で処理されていても、自己の資産として取得されていない資産について評価損の発生する余地はないのである。

3. 本件プラントは、約定の昭和四〇年三月末までに据付けがされたが、約定どおりの機能を発揮しなかつたので、控訴人はこれを受領せず、その後売主において再三にわたり調整や改良が加えられたが、所期の機能を果しえないことが判明し、結局昭和四六年三月一六日に至つて代金を既払の二三、〇〇〇、〇〇〇円とし、本件プラントを現状有姿のまま引渡ずみとする旨の合意が成立したのである。したがつて、本件事業年度の末日である昭和四四年一二月三一日現在においては、本件プラントはいまだ建設途上にあつて、控訴人に引渡されていなかつたものとみるべきであるから、控訴人はこれを自己の資産として取得していたものとはいえず、これにつき評価損が発生する余地はないのである。

4. 見方をかえると、昭和四四年一二月三一日現在、本件プラントの売買契約は有効に存続しており、控訴人は、この契約にもとづき所期の機能を発揮しない本件プラントについて補修を求め、完全な履行を請求できる立場にあつたのであるから、その時点において評価損の発生を論じる余地はないというべきである。

第三、証拠

一、控訴人

1. 甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし七、第五ないし第一二号証を提出。

2. 原審証人藤岡正雄、当審証人後藤一路、同橋爪秀雄の各証言、原審における控訴人代表者尋問の結果、原審における検証の結果、原審における鑑定人賀勢晋の鑑定の結果を援用。

3. 乙第二号証の成立は認める、乙第一号証中振替伝票については原本の存在および成立を認め、調査メモの成立は不知、乙第三号証中見積書については原本の存在および成立を認め、調査メモの成立は不知、乙第四、第五号証の成立はいずれも不知。検乙号証についての被控訴人の主張事実はいずれも不知。

二、被控訴人

1. 乙第一ないし第五号証(なお、乙第一号証中の振替伝票、乙第三号証中の見積書はいずれも写)、検乙第一ないし第九号証を提出。なお、検乙号証は国税調査官仁井信彦が昭和四五年九月二四日に撮影した本件プラントの写真である。

2. 原審証人伊藤安次の証言を援用。

3. 甲第一二号証の成立は不知、その余の甲号証の成立はいずれも認める。

理由

一、当裁判所も、控訴人の請求は排斥を免れないものと判断する。その理由は、次に記載するほか原判決理由中の説示のとおりであるから、これを引用する。

1. 原判決一三枚目表七行目の全文を「当審証人橋爪秀雄の証言」と改め、八行目の末尾に「同証言、」を加え、九行目「証人藤岡正雄」の前に「原審」を加え(以下、「証人藤岡正雄」についてはこれに準じる。)、九行目から一〇行目にかけての「原告代表者本人尋問の結果」を「原審における原告(控訴人)代表者尋問の結果」と改め(以下「原告代表者本人尋問の結果」または「原告代表者本人の供述」についてはこれに準じる。)、一二行目から末行にかけての「設置され、完成したこと」を「設置されたこと」と改める。

2. 同裏三行目「そのため」の次に「本件プラントの引渡はされず、もとより原告の事業に供されることなく、」を加え、一〇行目「代金を」を「当初の契約条件を変更し、代金を既払の」と改め、末行「成立し」の次に「、同日右の引渡を完了し」を加える。

3. 原判決一四枚目表一行目「原告代表者」の前に「当審証人後藤一路」を加える。

4. 同裏三行目「原告代表者」から七行目「でなく、かつ」までを「当審証人後藤一路の証言、原審における原告代表者尋問の結果は当審」と改め、一一行目「証人伊藤安次」の前に「原審」を加える(以下「証人伊藤安次」についてはこれに準じる。)。

5. 原判決一五枚目裏四行目「検証」の前に「原審における」を加え、六行目「認められる。」を「認められ、右認定に反する当審証人後藤一路の供述部分は採用できない。」と改め、七行目「(ロ)の事実」を「(イ)の事実」と改め、一〇行目から一一行目にかけての「、および」から末行「なさないこと」までを削除する。

6. 原判決一六枚目表末行から同裏四行目「定かでない」までを「しかし、右主張にそう甲第一二号証の記載内容ないしは当審証人後藤一路、原審における原告代表者の供述部分は、後記のところと対比してたやすく採用することができない。」と改める。

7. 原判決一七枚目裏一二行目「ところで」から原判決一八枚目裏三行目までを次のとおり改める。

「ところで、前記1(イ)掲記の事実によれば、本件プラントは契約当初の約定どおり昭和四〇年三月末に原告の徳島工場に設置されたが、所期の機能を果さなかつたので、訴外会社から原告への引渡がされず、原告の事業の用に供されることもなかつたのであつて、その後原告と訴外会社との間で契約条件変更の交渉がもたれ、昭和四五年三月一六日になつて取得価額が確定するとともに引渡がされたものである。したがつて、本件事業年度の終了の時においては、本件プラントはいまだ原告の固定資産(減価償却資産)ではなかつたといわざるをえない。また、叙上の事実によると、右の時点においては、本件プラントの取得価額、換言すれば法人税法三三条二項に定める評価換え直前の帳簿価額はいまだ確定していなかつたことになるから、本件事業年度終了の時点において評価損の額を算定することはできない筋合である。そうすれば、本件事業年度の所得金額の算定にあたつて、本件プラントにつき評価損を損金に算入することは許されない。なお、原告(控訴人)は、本件プラントに関しては帳簿上建設仮勘定科目に計上されているから、当該資産の帳簿価額が記載されているものとして評価損の計上が許されるものと解すべきであると主張するが、本件プラントに関し所論の帳簿処理がされていることさらには本件において原告が損金経理をしたことを認めるに足りる証拠はないばかりでなく、建設仮勘定科目との主張自体に照らして本件プラントが固定資産としてその価額が確定するに至つていなかつたことが明らかといわなければならない。したがつて、原告の右主張は採用することができない。」

二、そうすると、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 朝田孝 裁判官 富田善哉 裁判官 川口富男)

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